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 研究所で斎藤は、演技技術そのものを教えられたことは、殆どなかったという。それよりも、もっと大切なものを発見する。
「演じるというのは、憑依するとか、まとうとかではなく、存在することなんだと。誰かの、ほんの一部分を演じることであっても、ただ演じるのではなく、そこに存在していなければならない。そのために、演じるその瞬間の前後、奥行き、背景、どれもが俳優には備わってなければできない仕事なんだと学びました」
 演じるというのは、ときとして、その演技の持つ何かに流されてしまうこともある。だからこそ、演技に自分が流されないようにすることの大切さを師から学んだ。

「俳優は世の中を知るということが、何より大事。そのために自分のアンテナに引っかかってくるものは、そのまま受け取らず、自分で咀嚼して自分の言葉で話せるようにする。それも先生から教わった大切なことです。外国の俳優を見ていて思うのですが、彼らは演じるという仕事を通して、世の中の深い部分とコミットしているように感じるんです。俳優であるということと、ひとりの人間であるというところに境界線がない」
 そこを切り離したほうが、楽なのかもしれない。演技は演技、自分は自分だと。しかし、それでは、どちらかがどちらかに嘘をついていることになる。それは結果的に演技を底の浅いものにしてしまう。




「研究所で先生に学ぶまでは、演技というのは技術で上達するのだと思ってました。でも、そうじゃない。存在の深さが、大切なんです。それは何か特別な技術が必要なことではなく、日々を自分というものをきちんと持って生きることで深まる」
 そして、とにかく常に本物を見ろ、本物に触れろ、と叩き込まれた。

「伊藤先生自身もそうですが、よく授業でもお話をしていただいた彫刻家の佐藤忠良先生をはじめ、先生の周りにいるさまざまな分野の方々も、本物でした。本物というのは、誤魔化しが効かないところで常に勝負をしている。そういう本物の方が作られた本物の作品を見ていると、自分のやるべきことが山積みなのが分かるんですよ」

 本物の持つ、本物のちからを自分の基準に持つ。そこから、自分に足りないものを探すことは今も「クセ」のようになっているという。
 遠回りといえば、遠回り。けれども、そこに時間を費やすことを斎藤は「救い」だと断言する。
「自分で自分に時間をかけていることは、本当に大切。この職業で、簡単に何かがうまくいくようなことはないんです。だから、一生勘違いすることはないと思う」

 そのまなざしの先には、いつでも斎藤に語りかける師の姿がある。

「いいか、登山と同じなんだ。上にはいくらでも休まず登りつづけてる人がいる。だから、休めないんだ」

取材・文 / ふみぐら社

斎藤 工  Saitoh Takumi

伊藤正次演劇研究所元研究生。映画『時の香り~リメンバー・ミー』(2001年公開)でデビュー。映画『春琴抄』(2008年公開)『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010年公開)『逆転裁判』(2012年公開)ドラマ『オトコマエ! 』『ハガネの女 Season2』『最上の命医』『大河ドラマ 江~姫たちの戦国~』『QP』など出演多数。舞台、ラジオパーソナリティ、歌手としての活動のほか演劇ユニット『乱―Run―』を結成するなど幅広い分野で活躍。

斎藤工 オフィシャルサイト



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斎藤工さんが出演された下記の番組内で当研究所が取り上げられました。
* NHK『スタジオパークからこんにちは』 2012年6月1日放送
* NHK『ミュージック・ポートレイト』 2013年5月16日・23日放送