0001.jpg1957年 俳優座劇場玄関口にて。千田是也氏と。
0002.jpg1960年 ブレヒト脚色、千田是也演出「母」舞台稽古

 人間とは何か、演劇とは何かを体現、指導することを自らの命を使いながら、文字通り“使命”として果たし続けた伊藤正次。
 その歩みは、今日をどれだけの熱意と覚悟で生きられるか、という問いかけと共にある。

 1954(昭和29)年、18歳で俳優座三期会(現東京演劇アンサンブル)入団。19年間の役者生活で数多くの舞台に出演する。退団後、フリーとなり映画、ドラマ、ラジオドラマ、ディスクジョッキー等に出演するが、43歳で大病を患ったことを機に指導者としての道に入る。

 1979(昭和54)年、東京・四ッ谷に伊藤正次演劇研究所を設立。当時、新人女優の登竜門であった「ポーラテレビ小説」新人ヒロインの演技指導などにあたり、その類稀な指導者としての才能を開花させ、数多の有名俳優をデビューさせていく。

 その指導方法は「本物の人間をつくる」「役者の前に、人間であれ」という一点に収束する揺るぎないものだった。いくら演技ができていても、人間として何を考え、どう生きるかを根本から見つめていないものは決して認めない。

 見た目だけでうまくやろうだとか、やるべきことをせずに取り繕うようなことを研究生がしたときには、骨の髄まで響くような雷で容赦なく叱り飛ばした。

 それはまた、演じるという仕事が、決して舞台や撮影所、スタジオの中、作品の中だけの狭い世界に留まるものではなく、世の中とつながっていく責任のある仕事だという想いからくるものでもあった。

 あらゆる表現には、そのときの時代や世の中の訴え、叫びがあり、役者はその声に応えなければならない。そのためには、自分がいまいる場所を超えて、あらゆる時代、世の中を知る必要がある。どんな小さな小道具や時代考証ひとつでも、おろそかにはできない。
 そして、影のように見える部分も、見る角度や光の当て方を変えれば、浮かび上がるものがある。そのことを役者は「そこに存在する」ことで知り、そのうえで、自らが光も影も演じられるようにならなければならない。

 その覚悟を、伊藤正次は『一日一生』という言葉で研究生に疾風怒濤のごとく語り続けた。人間の一日には、その人間の一生が凝縮されている。わずか一日でも、いい加減に生きる人間は、いい加減な一生を生きることになる。小さなことも大事にしない人間は、どんな小さなことも成し遂げられない一生になる。

 そうした信念と生き方は、演劇だけではなく、あらゆる藝術分野の表現者、世代、国境も越えた多くの友人、仲間を引き寄せた。

 伊藤正次の歩んだ人生は、そうした仲間、友人、研究生たちと共に演じた『一日一生』の舞台だったのかもしれない。

0003.jpg1962年4月 俳優座スタジオ劇団合同公演、福田善之作「真田風雲録」。演出の千田是也氏と。
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iwaukai2_web.jpg1996年 伊藤正次を祝う会

ito_masatsugu.jpg撮影:斎藤康一

伊藤正次 Ito Masatsugu

1936年(昭和11年)

4月3日生まれ。東京都出身。

1954年(昭和29年)

俳優座三期会(現在、東京演劇アンサンブル)に入団。19年間に数多くの舞台に出演。

【主な舞台出演作】
『母』ベルトルド・ブレヒト作、千田是也演出
『第三帝国の恐怖と貧困』ベルトルド・ブレヒト作、熊井宏之演出
『明日を紡ぐ娘たち』集団創作戯曲、広渡常敏演出
『トランプの国』ミハルコフ作、熊井宏之演出
『出家とその弟子』倉田百三作、村山知義演出 他

1973年(昭和48年)

東京演劇アンサンブルを退団。退団後、フリーで役者活動をする。映画、テレビ、ラジオドラマ、ディスクジョッキー等の多数作品に出演。

【主な映画、テレビ出演作】
映画:
山本薩夫監督「松川事件」、三隅研次監督「舞妓と暗殺者」
神山征二郎監督「宮澤賢治—その愛」「郡上一揆」 他
テレビ:
日本教育テレビ(現テレビ朝日)「あそびましょう」
岡本愛彦作品「私は貝になりたい」、テレビ朝日「ぼくの妹」
NHK「連続テレビ小説」、TBS系列「ポーラテレビ小説」
TBS系列「東芝日曜劇場」、その他レギュラー出演作多数

1979年(昭和54年)

43歳で大病を患ったことを機に指導者としての道に入る。
伊藤正次演劇研究所を四ッ谷に設立。

1985年(昭和60年)

四ッ谷から代々木上原に研究所を移す。

新人タレント育成、指導にかけては業界トップ的存在となる。
講義方法「演技テキスト」を用い、表現基礎から感情表現に至るまで細かく個人指導。

2004年(平成16年)

6月19日永眠(享年68歳)

同年、第50回の研究所公演をもって、25年間続けてきた
伊藤正次演劇研究所の歴史に幕をおろす。

【講師歴】

  • 国立音楽大学講師として、演劇論テーマ「現実と虚構」表現教育「表現と表出」。
  • TBS系列「ポーラテレビ小説」新人ヒロイン演劇指導を多数
  • NHK「連続テレビ小説 おしん」演劇指導
  • TBS緑山塾 演技指導
  • 東京アクターズスタジオ(大山勝美主宰)演技指導
  • ジャパンアクションクラブ 演技指導